本日のメモは天野芳太郎さん。動機は野内与吉。もちろん読む前からアンデス研究第一人者であることは知っていたし、以前にメモした島袋盛徳の本にも登場したものの、それ以上の興味はありませんでした。
普通は「インカ帝国展」とか「古代メキシコ展」などのアンデス文明から天野芳太郎を経由して野内与吉にたどり着くのが普通ですが、私は真逆。
(『あちら・こちら物語 中南米随筆』も読みたかったけど高くて断念)
さて、当時のマチュピチュは道も整備されていないうえに石造文化という場所にポツンと一軒家の木造(ポンコツ)ホテルが現れ、ましてやそこの主人が日本人!?となれば、私だったら「これは絶対に何かの縁かも」とか思わざるを得ない展開です。
そこにいた野内与吉も「なんで?こんなところに日本人?」だし、そこへたどり着く天野芳太郎も「お前こそココでなにしてんの?」ですよね。すべてあり得ない展開。
いや、ほんと、これ、マジですごい話です。
相当肝がすわってないとこんな行動は取れません。お金があればなんでも出来るといっても、知らない場所へガンガン突き進むにはそれなりの胆力が必要で、この2人だけで2-30名規模の探検隊と同等の八面六臂な活躍だったろうと妄想を楽しんでいました。
さて、天野の武勇伝はネットに山ほどあるので割愛します
気になった部分を少しだけピックアップ。
今回下の2つの動画をじくりと見ましたが…
確かに素晴らしいチャンカイ文化遺産に違いないですが、日本人だと自然に日本の焼き物や着物を想像して比較しますし、それが出来る歴史を持った国ということも改めて思い知らされます。
美しく感じるかは人それぞれですが繊細であることは日本が際立っており、伝統文化が途絶えるとその民族の感性も低下することを感じます。
わが囚われの記 : シーチキンの名で全米に販売され好評を博した
どんなことが書かれているかというと…
天野さん、そこらじゅうに会社を作りまくって…すごいお方です。このストーリーは以前にも紹介した奥様の会話にも残されています。
でね、気になったワードは「シーチキン」。シーチキン?ん?当時で?シーチキン?
ふつうはスルーする話ですが、気になったのですよ。
シーチキンといえば…? そうです。清水市のはごろもフーズ。上場企業ですよ。サイトにもしっかりと書かれております。
気になるじゃないの。Wikipediaにも…
もっと気になるじゃないの。
これが1936年の話で、翌年は盧溝橋事件から日中戦争という時代。日本国内はそんな状態でも天野さんは中米でマグロを釣って稼いでいた話です。
実際に当時の広告を見ると、「Chicken of the Sea FUNCY TUNA」と書かれていますね。「Sea Chicken」ではなく、「Chicken of the Sea」ですね。そうですよね。シーチキンとなるとBBCニュースのような、ニワトリが鍋に乗って海を漂うようなことになりますよね。(思わずBBC記事に笑ってしまいました)
真偽は不明ですが、ツナを中米や北米で売り捌いて一儲けしたことは間違いなさそうですね。
いまではシーチキンといえばはごろもフーズですが、その当時は商標もない時代ですし、天野さんのアイデアをパクったのか、譲ったのか、というと下品ですが、そういった見えない部分を想像して楽しみました。
ちなみにバンキャンプ(Van Camp’s)という会社は今もあり、そもそもは缶詰のポークビーンズを兵隊が携行し、その味で飼い慣らされた人が帰国後もリピートしたことで大きくなった会社らしいです。私はあの甘さが好みではありませんが…。
天界航路 : 天野丸の切手
天野丸というのは先に触れたマグロ漁船のことで、その功績を称えた切手の話ですが…
天野丸の切手?ってなに?って思いますよね?
下のページで紹介されていまして、パッと見た印象はカツオの一本釣りのように見えますが、なんでこんなデザインなの?と思います。
のちに天野さんの肖像切手も発売されますが、この切手は1940年ごろのお話。
余談ですが、この第二回交換船帝亜丸というのは以前にメモした「かなりやの唄」にも登場する話です。なんという繋がり。昔も今も人生のステージレベルが近い者が混ざり合うのは一緒。だから人生は良くも悪くも誰と出会うかで変わります。
話を戻し、じゃあなんでボツ企画の切手があるんだ?という話ですが…
というオチです。
「天界航路」は1984年(昭和59年)の本ですから、携帯用CDプレーヤー「ディスクマン」が流行した時代だそうで、学生が円盤をカバンに入れてイヤホンで聴くのがオシャレな時代でしたね。当然インターネットなんてありませんから、当時この本を読むと「天野さんってスゲー人だなー」で終わる話ですが、それから40年経つとだれでもネットで買える時代です。
しかも恐ろしいことにeBayなんて使わなくても日本国内でだれでも個人売買できるマーケットとネット機能がある時代。そしてこれがコスタリカで発行された切手です。
書かれている内容もアプリ変換で確認できる時代。「コスタリカ 航空便 プンタレナスのマグロ釣り 全国農業産業博覧会 カルタゴ 1950年 2センティモ」。この切手を見てもまったく天野さんを想像できませんが歴史を知ると興味が湧きます。
ちなみに下の切手が天野芳太郎ご本人ですが年号が「1898-2018」になってるのか不思議に思って調べると、生誕120周年記念ということらしい。こちらはペルーで発行された切手。
わが囚われの記 : アメリカの演ずる戦争劇
この本で一番興味深かったのが187ページ。天野アンテナ恐るべし!当時アメリカで頻発していたストライキに対する考察が興味深い。
どうです?天野さんがビジネスやアカデミックな方向だけへ軸足を置いた人でよかった。こんなキレ者が戦争へ傾倒したら大変。
いまそれが金融から崩壊しつつあるのでトランプさんが「Make America Great Again」と言うわけで21世紀も4分の1が過ぎ去ろうとしていることを思えば、主役国交代の時期なんでしょう。
つまり、いつまでも尻尾をふって「日米同盟がどーたら」なんて時代ではないのですよ。
たしかにその通り。アメリカは「数は力」の国。私の友人もアメリカへ傾倒している人の会話は総じて「大きいことはいいことだ」な枠に収まる人ばかり。完全に脳みそがアメリカナイズ。
今まさに移民で帳尻合わせを試みているアメリカ民主党ですが、その方法はいずれ仇となると言うのが共和党。後の世が決めることですが、よその心配をしている場合でもないのが日本。
もちろん天野さんは昭和57年没ですから日本の少子高齢状態を予想できた可能性もありますが、事ここに至っては「Make Japan Great Again」と旗振りする政治家は与党に一人もおらず。
それにしても天野さん、鉄人ですな。
北米、中米、南米と移動しながら、行く先々で寅さんのように商売しては移動の繰り返し。戦前はこれができましたが、今の時代はできません。かつて電波少年で猿岩石がバイトしながら旅をするシーンがありましたが、今思えばあれも常識的にはアウトですね。なにをするにも利権とお金で八方塞がり。(もちろん型破りもアリですが…)
「現代人は税金の奴隷」ということを強く感じます。しかも、それは世界共通ですね。
余談ですが「GHQ日系人収容所」には天野さんが「CIAに監視されていた」と書かれているのですが、1次資料ではなく伝聞状態で真偽不明です。他の類似書籍も同様。しかしながらこの行動力ですとさもありなん。
天野さんに学ぶ3つのビジネスセンス
天野さんの人生を堪能しお腹いっぱいです。読み終わって3つのことが記憶に残りました。
1.「海外で事業を興す」ことが普通であること
最近では、旅系YouTuberというポジションもあります。私の世代は旅行会社と関わりながら海外へ出かけた第1世代だと考えると、クラウドファンディングや広告費で出かけたのが第2世代でしょう。そして今は第3世代への過渡期だと思いますが、その多くは「海外へ出かけただけ」の話ですね。移動を見せて広告費で稼ぐ。ただそれだけ。
そして最新系が「広告だけの空中戦ではダメだ、実際に地上戦をしなければ」と海外事業を始める動画もチラホラ出現中。ようやく天野さんレベルの入口へ。こうなると現地でのロマンスから2世誕生の流れもそう遠くない話です。
もし私が若い時にこの本と出会っていたら、また別の人生を送った気がしますね。
2.商売の利益を現地へ還元する地産地消
もっとも分かりやすいのが天野博物館。
遺跡発掘への傾倒は人生の後半ですが、稼いだお金でさらに遺跡発掘&ホールドは自己満足で普通の話。それを日本に持ち帰るでもなく「ペルーのものはペルーに」を実行しちゃう器の大きさ。
今から海外で活躍される方は天野モデルを見習うと成功するんじゃないですかね。
今は世界的通貨危機直前でもあり、この円安で為替差益の見込める国となると世界広しと言えど限られてくると思います。天野さんは遺跡という文化発掘保全が国家的協調すら集める原動力。色々とヒントがまぶされています。
3.「人生は出会いですべてが決まる」ということ
以前に野内与吉の人生を想像していたときにも思ったことで、自分の人生もそうですが、自分の体が自分の意思で食べたもので出来ているのと同様に、自分の人生もまた自分の意思で出会った人で出来ていることがよくわかる天野交友録です。
しかし、だれもが天野さんと交友できませんから、それは運命と、その運命を自らの手で掴む行動力や第六感が重要です。そのことを若い時に知っておくことは大事だと気付かせてくれる本です。
なんとなく海外へ行き、なんとなく情報を得、なんとなく人と出会い、なんとなく結婚し、なんとなく子どもをもうけ、なんとなく働き、なんとなく年老いる…それもひとつの人生ですが、若くしてモヤモヤしている若者がいたら、この本は本当におすすめの一冊です。
しかも戦前、戦中、戦後という波乱の時代に世界中をビジネスで稼ぎながら移動し続け、同時に日本文化や海外文化をリスペクトしてアカデミックなこともなおざりにせず追及し続けるしぶとさ。
スゴい人がいたものだと感心しきりの読書となりました。戦争時代に流浪する天野を知るには「わが囚われの記」、人生全体を掴むには「天界航路」がおすすめです。
それにしても、なんでファミリーヒストリーって、こうも興味をそそられるんですかね?
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