移住研究 No.22、24 「パナマ日本人移住史」

ありがたい一冊
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今回は南米移民史メモの番外編。

2020年にダリエンギャップについてメモしました。一般常識としては地球上でもっとも足を踏み入れたくない場所のひとつだと思います。

死ぬまでにこの地の本を日本語で読めることは幸せかも「ダリエン地峡決死行」
産業編集センターの「わたしの旅ブックス」シリーズの1冊でコロンビアとパナマの国境移動にフォーカスした一冊です。特別この場所へ行きたいわけではないのですが中南米の上下、前後、左右の関係を少し知っておきたくて...

かの関野吉晴さんも「自然より人間が怖い」とか「とにかく気持ち悪い」と話される場所。

関野さんは地球パズルに欠かせないピースだから踏破されただけで、普通の人は「遠慮する」という場所に去年は絶賛経済崩壊中のベネズエラ経由で南米と関係ない中国人までが右往左往しているニュースまで耳にする場所。

むかしは西側エクアドルからコロンビア経由が有名でしたが今では東のベネズエラからもとなると流入人数がうなぎのぼりというのもうなずけます。

パナマ移民当局の幹部、マリア・イザベル・サラビア氏はメディアに対し、同地峡を越えた移民の数について、昨年1年間の人数を7月31日に上回ったと説明した。

同氏によれば昨年は「前代未聞の年」であり、合計で24万8284人がダリエン国立公園を通過した。今年は7月30日、31日の両日で1869人が地峡を越えており、年初来の累計は24万8901人になったという。

危険な地峡越えを行う人々の2割前後は子どもや若者だとされる。

そのうち少なくとも51%は5歳以下の幼児だと、サラビア氏は付け加えた。

同氏によると、ダリエン地峡を越える人々の内訳は、ベネズエラ人とハイチ人が大半を占める。以下コロンビア人、エクアドル人、南米大陸以外の移民と続く。

60キロのダリエン地峡を越えて、移民たちはコロンビアからパナマへ移動する。米国やカナダへの到達を目指す人々にとって、ここは重要な通過点となる。  – CNN 2023.08.02

7月段階での24万人は12月に締めると「約52万人」という数字に膨れ上がり現場のカオスぶりが伺えます。なんでこんな危険な場所を命がけで移動するのか?というと「じっとしてると死ぬから」です。

余談ですが日本人はすり替えキーワードを察知する能力が弱い。

どうしても文字面を真にうける傾向が強くそれだけお花畑度合いが高いわけですが「就労入国」と聞いても「本当に就労だけで終わる問題か?」というアンテナ感度は必要です。

それほど世界は不法入国者のニュースで溢れています。私が最近見た動画で一番インパクトがあったのがこちら。本当に「51%は5歳以下の幼児」というのが一目瞭然。

なぜ「51%は5歳以下の幼児」になるのか?ですが、それはアメリカ最大の闇「児童誘拐、人身売買、性的虐待」に消えているとも言われています。

 

むかしの日本人は超アクティブで勇猛果敢すぎたかも

むかしといってもせいぜい1世紀前の話ですが…

ダリエン地峡の読書後に「よくもまぁこんな場所へ行って本まで書いて、世の中には色んなことを思って行動する人もいたもんだなぁ」と思って調べていると、「大塚真琴」という人がそのことについて書いた記事があるという情報を見つけました。そこで調べてたどり着いたのが「移住研究」という冊子です。これはJICA発行の業務資料で、関係者が赴任先などで調べた論文がまとめられています。以前、ペルー移民に関するエントリーで少し触れています。

「沖縄県系移民音声資料」
4月初旬にペルーのクスコ移住者情報探しから色々な本を読み返したり、新たに買ったり。でね、移民系の調べ物をしていますと...

この「大塚真琴」という方もある意味「持っている」方で、ペルー、ボリビア、パナマについての考察論文は「事実は小説より奇なり」の連続。

24号にこんな一文があります。

大正9年から15年までの間に193名、昭和2年から16年の間に181名、合計274名の日本人たちはどんな感慨にふけって海を越えてきたのだろうか。

それはこっちのセリフです。読んでる私が感慨にふける情報だらけです。しかもそれぞれのストーリー展開がまさしく「事実は小説より奇なり」の一端をご紹介。

 

ひとりの女性が見学にやってきた

「移住研究 No.22」では天野芳太郎とパナマの関係などを紹介しながら話が進みます。著者は天野さん本人に会ったことがあると書かれています。

そしてこんな文章が…

私の勤務しているパナマ国職業訓練庁(INAF-URP)にある日、ひとりの女性がやってきて、話の糸口が解けだした。ローザ・アギナと名のった女性は…「私のパパはサンドー・アギナという日本人です。ヨシタロー・アマノという方はご存知?」
かなり文章を端折っていますが、ある日突然現れた女性がこんなことを口にしたところから物語がスタートします。結論から言うと、「アギナ」という女性は沖縄出身の「安慶名徳兵衛」へとつながるのですが、その徳兵衛は大正13年に沖縄からの移住者です。
しかし公式には大正13年に沖縄からの移住者は0人と記載されているそうです。
(どの記録が正解なのか???)
著者がアギナの親類に話を聞くと天野芳太郎が徳兵に会いにきていたことも判明。点が線にはならないけれど点線になる妙な歴史のつながりを埋める文章が続きます。
ここから少しずつ漁の話へと転換します。
天野芳太郎が天野丸で一儲けした時代でもあり自然な流れですが、そこにはこんな文章が…
市内のスポーツ用品店のアベルナティの釣コーナーのチャック・アベルナティ氏もこれを裏付けるような話をしてくれた。…中略…私のオヤジはヘミングウェイと一緒に船を出して沖に出たことがあったそうだよ。その時にね、カリブ海のコロンの近くに日本人のすごい漁師がいて、ヘミングウェイがわざわざ会いに行ったそうだよ。1949年の事だよ。
これもかなり文章を端折っていますが、老人と海が出会ったのは徳兵か?はたまたま芳太郎か?それとも別の日本人か?文章のすべてが実話というのが私の好奇心に火をつけるのですよ。
ほんとうにヤバい冊子です。
 
15. MAXIMO OCHI CH 19 BC
「移住研究 No.24」ではパナマ運河の利権争奪戦とでも申しましょうか、アメリカがパナマへ来る移民を排除して有利な状況を作ろうとする様子が当時の入国関連法をひもときながら解説されています。なにせ当時の中南米は移民で溢れかえっていましたから混沌としていました。
そしてこんな文字が…「大地役治とダリエン」。
この大地役治という人物は歴史上謎で日本人スパイ説が有力ですが定かではありません。しかし間違いなく地獄のダリエン地峡に住んでいた事実は残っています。
余談ですがその後の戦争で日本人移民に対する差別、抑圧、迫害はピークです。よくジェノサイドの話はドイツを思い浮かべますが、アメリカもたいがいの国でして、このパナマ記事でもアメリカへ抑留されたあとの日本人の情報がその後がぷっつりと途絶えたことが書かれています。
ある日、ある時、突然消されるのが日本人といったことを感じますね。
(怖っ…)
もとい、その大地役治についてこう書かれています。「しかし天野芳太郎の著書以外に、何の手づるもなく、次第にこの人物のことを忘れかけていた時、思いがけない事で、再びこの物のイメージが色濃く私の前に現れてきた」。
そしてこんな文章が…
私たちの日本パナマ職業訓練センターで、ある日の午後、スペイン語でランダムに入力されているリストを眺めていた私に一名の学生の氏名が飛び込んできた。「15. MAXIMO OCHY CH 19 BC」。この中で最も私の注目をひいたのはOchyという名字である。
偶然見つけた「オチ」という名前。
そこで大塚さんは「私はマキシモ・オチ」という生徒を私の部屋に呼びだしたそうです。
「ひょっとして、君の家系には日本人の血が混じっているのではないか、という私の問いに対してマキシモ・オチは」…
シィ、私の祖父はアレハンドロ・オチという日本人です。ダリエンのセネガンティで製材所を開き、金の採掘など大きく商売をやっていました。中略…全く驚くべきことだった。アレハンドロ・オチこと大地役治は実は日本軍のスパイであり、しかも、さらにもう二人、日本人がダリエンにいたというのである。
かなりヤバい文章であることが伝わるでしょ?
戦前の日本人が世界を股にかけてインテリジェンスしまくっていたのがよく分かります。
(まさかの東部第33部隊だったりして?)
それが欧米ではなくアジアでもなくダリエンのお話し。ヤバすぎる。

ダリエン地峡とその主な河川 p.140

『『たずね人…』  Tracing back the Family Roots』

 
仕事が減る未来に参考となる移民書籍の数々

移民、移住系の本は日本民族が22世紀も残るヒント集にも感じます。そもそも「なんで移民したのか?」というと、特に初期移民は「日本では食えないから」です。経済移民。

では「なんで食えないか?」というと「日本に仕事がない」からです。もしくは自分で仕事を生むことができないから。

では「なんで仕事がないか?」というと「それを予測行動できなかった」からです。

いまの日本の状態にもピタリと当てはまります。そしてあと15-20年後に私の世代が死にはじめると日本は再び「仕事がない」時代に入ります。

人口が減るということは、会社も減ることであり、仕事も減る、収入も減る。売る人も買う人も減るということ。

まもなく仕事がない社会がやってくるのです。

そうなると選択肢は3つ。

  1. 食えるだけの手に職、学力、経験値を上げて雇われる
  2. 食えるように自分で何か(事業を)はじめる
  3. 食える異国へ出かけるパイオニア

20世紀は総じて1番が無難な時代でしたが後半は大学教育という名の教育ビジネス化&量産化で「大学、そんなに要るか?」という風潮もチラホラ。それも淘汰の最中ですが21世紀にも通用するか?というと通用するけどそれで幸せな人生を遅れるかは別の話に思います。

私は21世紀は2番の選択がよいと思います。もちろん1の「手に職、学力、経験値を上げて雇われる」も経験できればよいですが、いま生まれている0歳児が暮らす日本社会はすでに仕事減少時代に突入済ですから1に割く時間が適当かの判断かは悩ましいですね。なにせ情報スピードも早くタイミングを誤ると大事故になります。

日本人、静かに進む海外流出 永住者が過去最高の55.7万人に:朝日新聞
日本人の海外流出が静かに進んでいる。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、2022年10月1日現在で永住者は過去最高の約55万7千人になった。新型コロナ禍で留学や海外駐在などでの長期滞在者が減少す…
連載「わたしが日本を出た理由」一覧 - A-stories(エーストーリーズ):朝日新聞
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3番は今の日本で選択肢としてレアケースですが、この120年かけて作られた各国の日系社会とて永久ではなく、未来は「ここ沖縄居留地はむかし日本からの移民によって開拓された街でしたが2050年に云々…」で消える可能性もあるわけです。

案外現地の日系人からすると「お金の問題は一旦横に置いて、これをどうすれば引き継げるか?」を考えているのでは?と思います。そう考えるのが日本人DNAだろうと妄想していました。

消滅可能性自治体とは 全国1729自治体の都道府県別一覧表
民間の有識者でつくる「人口戦略会議」は2024年4月、「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」にもとづき、人口から見た全国の地方自治体の「持続可能性」について分析しました。人口の出生率の「自然減...

いずれにしても今のうちに次世代への手を打つ必要がありますが現実は人口減少の手前に円安で息の根を止められています。

(おらく2024年4月25日に実質実効為替レートは1960年台へ逆戻り)

米ドルも日本円もゴミの状態です。どれだけ豊富な対外資産でもゴミはゴミ。

これだけ長期ものあいだ経済成長なく生きられたのは、もちろん自助努力もあるのですが、氷河期世代や非正規雇用が黙って辛抱している環境が続いたからでもあり、その世代が消えたその先は地獄が待っています。

それを日本への出稼ぎで埋め合わせしているのが今です。

1世紀を経てふたたび「日本で食えない」状況が迫るなか、これらの本を読み漁って感じることは日本の豊かさを次世代につなぐには誰もがその立場に応じた犠牲をともなってようやく可能になるレベルにまで社会が壊れていますので、4割が非正規国民となれば6割が考え方をシフトする必要があるわけですが「そんなの知らんがな」というのが現実。
そんなことを考えておりました。
 
〜◆〜◆〜
今回もお腹いっぱいです。
最近はユーチューブからも新情報を掴もうとするのですが移民の苦労が伝わってくる動画は皆無です。すでにジャングルではないのでそれを感じなくて当然ですがちょっと残念。
どの旅系ユーチューバーも国とり合戦状態で足跡を残すことばかりに気をとられて中身の薄いものばかり。そろそろ1人ぐらい日系人とストレッチする人が登場しないですかね。それができるユーチューバーは生涯の財産になると思うのですが。
以上、「パナマ日本人移住史」のメモでした。
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