奥アマゾンの秘境に根を下ろした明治移住者「アンデスを越えた日本人」

ありがたい一冊
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これぞ古本屋のワゴンゲットな100円書籍。

この手の本はもうずいぶんお腹いっぱいなんですが、南米地域に興味を持って以降ついつい手にしちゃいます。ぶっちゃけ詳しい情報はその地域ごとの「◯◯移民◯◯周年記念××の歩み」みたいな地域編纂書籍を買えば全てまとめられて便利ですが、やはり当事者ではない外からの視点で見た余談が面白いのでついついね。

本当にどーでもいい、ごく小さなトリビアが面白かったりします。

例えばこの本だと「山本を噛んだのは体長5センチほどのナマズの子。体長3-4センチの色付きメダカみたいなのもいた。(熱帯魚の)ネオンテトラを初めて収集したのは1936年のフランス探検隊で、場所はアマゾン川最上流ペルー領の秘境(保育社・標準原色図鑑全集17)とあった。案外、この砂浜あたりで捕まえたのかもしれない」みたいなトリビア。

話を戻し、この本は「奥アマゾン探検隊第一次隊(1973-76)」がペルーのアマゾン地域をスタートし、カヌーやボートで16,000キロを川下りした記録が2部構成で書かれており、前半は探検隊のアドベンチャーそのもの、後半は明治期移民によるアドベンチャーという内容です。

その取材経費、なんと1億円也。

先住民を殺戮しまくった結果のゴム祭り

そもそもアマゾン奥地の原住民はいろんな部族が自分たちのペースで生活してたわけですが、モータリゼーションなどのタイヤ需要による経済波により空前のゴム景気がはじまり、ある日突然白人による原住民の大殺戮が始まります。いわゆるインディオ狩り。ゴム収穫に奴隷として使われたり、人足として売り飛ばされたり。

欧米先進国の今の姿があるのは、こういった犠牲の元に成り立ってるわけで、ひどい話です。

不幸中の幸いはイギリスの悪巧みでゴムの苗が東南アジアに渡り、アマゾンゴム祭りが短命に終わったこと。とはいっても十数年インディオ殺戮は続いたわけで、もっと続いていたらインディオは根絶やしだったことは間違いなく、現在に至るまで禍根を残しています。

そのゴム祭りを聞きつけて乗り込んで行った民族のひとつがニッポン人。

 

本書後半のメインディッシュ「アンデス越え」

基本的に移民第1陣やそれに近い表現の「移民」は総称で、正確には「棄民」であったり「出稼ぎ労働者」ですから、当事者はまったくなりふり構っていられないことに加え、幸か不幸か基本的には健康な若い男性が海外へ出ましたから年齢的に体力が持ちこたえたと言えますが、農地での契約労働は地獄の日々だったので、その多くは脱走し、その行き先がアマゾン。

ある沖縄移民のアマゾン旅行記「アマゾン讃歌」
相変わらず似たような本を読み漁っていますが、以前読んだ「明治海外ニッポン人」で目にした名前に「島袋盛徳(しまぶくろせいとく)、ペルーで移民史研究家」みたいなことが書かれており、本を読みながらスマホ検索していたら出てきた本が「アマゾン讃歌」なる本。

以前読んだ島袋盛徳氏の本から察すると「リマ」まで行ったはいいものの、それはそれで苦労して「リマ経由アマゾン奥地着」というのも少なからずあったでしょうね。これによると「支払いは金貨だった」とありますから…私もその時代に生きていたら突撃したかもしれません。

本書ルートは王道の「アリコマ峠越え」です。

 

アリコマ峠(標高4,815m)を越えた日本人

3,776mの「富士は、日本一の山〜♪」です。

その山頂より1,000m以上高い場所を多くの日本人が歩いて越えた場所。

何度読んでも移民の苦労が偲ばれる地名。

こういってはなんですが、富士山ごときでも3,000mを越えると息が荒れて登頂を断念する人はたくさんいます。その時の体調や気候にも左右されます。まして登山装備などというには程遠い装いでトラバースしながら食事は野獣をハンディング。休憩はほぼ野宿。

明治移民は完全に元祖アドベンチャーレーサーです。

試しにこの峠越えを日本人の海外登山史上に並べてみると、高度の点では当時のレコードとなる。日本人が初めて欧州アルプスの高峰に登ったのは1910年のユングフラウ(4,158m)登山(羽賀正太郎氏)とされている。その何年も前に、大部分は氏名不詳の多数の人たちがそれより何百メートルも高い所へ達していたのだ。氷河のほとりのこの峠越えの途中、何人もの日本人が高山病で死んだと伝えられている。

この詳細は、後に「ゴム林日記」と呼ばれる貴重な資料の持ち主「新垣庸英氏」へのインタビューと共に綴られております。

峠の手前に日本人の墓がありました。ここで倒れたんでしょう。木の柱が立ててあった。見渡す限り雪景色で、私は南国生まれなんでこのとき初めて雪を見ました。

 

5,000m級の山間部を移動した日本人

下の図は全世界のピークや、その麓の地形を3D確認できるアプリなんですが、左下に見える湖がアリコマ峠に位置する「Laguna Aricoma」です。余談ですがその上に「Tambo(田んぼ)」の文字。ペルーの地図を眺めてるといろんな場所で田んぼが見られます。それだけ至る所で日本人が出没したということでしょうな。

そんなことはどーでもよくて、この辺りの山間部を縫うように移動してボリビア領やブラジル領へ移動したわけですが、これを見てもわかる通り各々のピークは「5,244m、5,293m、4,724m、4,845m、5,041m」などなど。

5,000m級の山々

推測ですがアリコマ峠を通過して2-3日は5,000m級銀座を歩いてたんじゃないかと思います。その途中でインディオに襲われたり、崖から落ちたり、寒さと空気の薄さに絶命したり。

そして、やはり、時代ですな。探せば出てくるアリコマ峠越え動画。

色々調べてるとアリコマ湖近くに「Japo Aricoma(標高4,436m)」という地名が残っていました。さすがに100年前の木の板(墓標)は朽ち果て何も残ってないと思いますがその付近を掘り返せば人骨があるやもしれませんな。今の時代ですから車やバイクで越えられることは想像できましたが、これより先はリアル「アマゾナス」。

新垣庸英氏も見た「見渡す限り雪景色」ですが…

ていうか、「0:22-0:24」辺りに映る人影が気になる。なんでこんな場所に人が歩いてるのさ。

ていうか、ドライバー、雪道をスマホ片手に片手運転って…怖っ。

この場所を日本人が単独やグループでとぼとぼ歩いて越えたと思うとね。

行き先は「緑の地獄」。

 

日本人DNAの顔立ちがアマゾン奥地で見られる不思議

以前読んだ本に「ボリビアのコビハに日本人が居着いた。そこの70%が日本人DNA」と書かれており「ほんまかいな」と思いながら読みました。それと似たことがこの本にも書かれておりますが、我々が知らないだけでこの辺り一帯は日本人DNAだらけなんでしょうな。

奥アマゾンの日系人・ペルー下りと悪魔の鉄道
10月は古本を大量購入して読み漁っていたのですが介護周りが忙しすぎて手にしたどの本も途中まで読んでは止まりを繰り返していました。月が変わり11月になってついに1冊読み終えました。それが「奥アマゾンの日系人」という本。こんな凄い本を残した方がいらしたんですね。

川下りをしながらひとつひとつの村々を訪ね歩くと、「ジャングルのそこらじゅうで日本人顔(平たい顔族)と出くわす」と書かれております。

アマゾン奥地で出会う人々

手前の人は「アントニオ木村」という名前の日系3世だそうで…

若干私の若い頃の顔に似てると感じてみたり…同系DNAだからかな。

明らかにアジア顔です。というか南米感ゼロ。

この文章によるとこの御二方は「自分が日本人DNA」という認識があるそうです。まぁ、これも4世、5世と続けば怪しいですが、少なくともこの探検隊が出会った頃の2世(57歳)と手前の3世(15歳)はそのことを理解していることが書かれています。

この本は1980年発行の本です。冒頭書いた通り探検したのは1973-76年。ざっくりと1975年に手前の3世が15歳だとしたら、今は還暦。発行時点で既に5世に触れていますから半世紀後の今では7-8世といったところでしょうかね。奥の方はお亡くなりでしょうね。

ちょっと行ってみたい衝動に駆られますな。

 

ふと思い出したイゾラドと日本人移民の遭遇(大妄想)

「ペルー下り」について色々と読み漁っておりますが、そもそもこの言葉はペルー移民が使ったものではなくブラジル移民から見た視点でして、ペルー下りの当事者はそれどころではない状態ですし、ピメンタ特需に恵まれたブラジル移民にゆとりすら感じます。

でね、とにかく色んなことが書かれてます。例えば「先頭は馬で、その後ろを移民がつてゆく」「靴は氷に引っ付くので草履」「目的地に着いたら骨と皮だけ」なんてことですが、気になったのが「インディオに襲われて亡くなる」という一節。

これというのは殺人現場を命からがら生き延びた人が見聞きした会話が人づてに文字として残っただけで真実は全くわかりませんが、わりと最近NHKで話題だったイゾラドとの遭遇率も高かったのではと妄想しています。

現在のイゾラドはかの峠から北へ1,000キロほど北の場所に集中しているそうですが、それというのも文明自慢の服を着た民族がジャングルを破壊するので中心部から外へ外へと追いやられてそんなことになっているそうですが、事は100年前の話ですからインディオももう少し広範囲に分布していたことを妄想し「飲まず食わずでヘロヘロになって歩いてるところを弓で射抜かれた日本人も結構いるだろーなー」なんて思います。

目下便利な場所に住む文明人は新型コロナウイルスと格闘し、不便な場所に住むイゾラドは自然免疫だけで森と一体化して静かに生きております。接触したら水ぼうそうレベルの接触で殺人鬼と化す服を着た民族というのもね…。色々考えさせられます。かのゴム祭り時代に結果として根絶やしにされた民族もありそうな気がします。妄想ですが。

 

状態のせいにしていいけないが、移民の人権については考えされられることだらけ

こういう本ばかり読んでいると、いま日本に入国中の(移民手前のような状態の)出稼ぎ労働者の処遇などについても考えさせられますな。やってることは100年前と大差なくピンハネと低賃金で労働搾取してるわけで、東京オリンピックの影に出稼ぎ労働者アリといったところ。 

おそらくどの国へ移民しても労働者としての1世は想像を絶する苦労。日本でそういう人たちに出会えば懐の深い人付き合いができる日本人でありたいと思います。

ふと大昔に読んだ「追われゆく坑夫たち」という本を思い出しました。ついでにメモ。

この本は昭和30年ごろの炭鉱夫の実像が生々しく描かれた本でして、到底人間の所業と思えない奴隷の如き労働者の姿が「人ではなく物」のように描写されており、かなり強烈なインパクトがあります。なにせ日本国内の話ですから。その時代の労働者は本当に貧しく、海外移民を歴史全体で見れば後半戦とはいってもまだまだ大勢出かけていた時代。今からほんの半世紀ちょっと前のお話。

日本は島国閉鎖空間なので人権の捉え方も無意識に「日本人」から入る癖が抜けませんが、こういった本を読むことで「人間が基本、国籍はその次」といったイロハのイみたいなことを思い出させてくれます。

この本と同じ時期に貧しき者や一旗あげたい者が海外へ旅立った話を重ねると、どの時代も社会は格差と階級で成り立っていることが見えてきますが、これだけ情報蔓延の時代に今後も通用し続けるとは思い難いですが、未来は「火星で出稼ぎ」みたいな話ですかね。

南米シリーズも気になっている場所はあらかた制覇しましたが、あとはブラジルとボリビアの本を読んで一旦ピリオド予定。

この本も面白かったですよ。超おすすめの一冊です。

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