死ぬまでにこの地の本を日本語で読めることは幸せかも「ダリエン地峡決死行」

ありがたい一冊
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産業編集センターの「わたしの旅ブックス」シリーズの1冊でコロンビアとパナマの国境移動にフォーカスした一冊です。特別この場所へ行きたいわけではないのですが中南米の上下、前後、左右の関係を少し知っておきたくて読みましたが、読んだ後もこの場所を目指したいという欲望は湧きません。

(こういう旅は変態活動できる若者に任せます)

タイトルのダリエン地峡はグーグルアースで見ると「ダリエン国立公園(Parque Nacional del Darien)」という地名を見つけることが出来ますが、それ以外の情報は何もありません。その地域にパナマとコロンビアの国境が位置しますがあるのは「獣道」のみ。よって人が行き来する理由は「スネに傷がある人専用の獣道」ということになります。

(追われたり、逃げたり、立ち向かったり)

ちなみに私も海外僻地のオフラインマップとして愛用するmaps.meは地名がアップデートされております。誰かがこの辺りをウロウロする結果の賜物。

(世界中のやんちゃ坊主ガンバレ)

左がGoogle Maps、右がmaps.me

ここは昔から「立ち入るべからず」で有名な場所ですが、有名な理由は「道」にあります。

アメリカのアラスカからカナダのブリティッシュコロンビア州、アメリのアリゾナやテキサス、メキシコへと南下するルートはパンアメリカンハイウェイとして知られていますが、そのまま下ると理論上はアルゼンチンの南端ウシュアイアまで行けます。

ただし、その道が途切れているのがこの本のタイトルでもある「ダリエン地峡」。

パンアメリカンハイウェイ

この道はパナマシティの南にあるヤビザ(Yaviza)という街で途切れ、続きはコロンビアの…ある意味「道がある場所から再開」です。一般的には「トゥルボ(Turbo)」と言われています。

この獣道しかない場所約106キロ(66マイル)の真空地帯がジャングルボーダーです。

この区間移動は一般的には東側を船で移動するかパナマシティから飛行機で移動するかの二者択一ですが、この筆者は歩いて移動した強者。普通歩かないですよね。危険すぎ。

(※以下、より臨場感をアゲていただくため、この地域の関連動画をペタペタ貼っときます)

つまり南北アメリカ大陸を縦断したと豪語する旅の達人でも、たぶん99%の人はダリエン地峡を知らない、ちょっとややこしい場所の本です。かのドロンズもこの地点は船で北上しました。以前「ペルー下り」をメモしましたが、そんなことを決行する日本人が居たぐらいですからダリエンを通る人も沢山いるはずで、言ってみれば「コロンビア下り」です。

本の内容はというと、日本での平和ボケした生活では有り得ない展開の数々が刺激的で面白く、呼吸するのを忘れて食い入るように読み進めることができる本ですが、ちょっと残念なのは構成。

第一章「国境手前でサヨウナラ」で読者の心を鷲掴みしますが第二章「コロンビアという国」で少し現実に戻されます。そして第三章「先住民たちの楽園」で再び非現実的トリップ再開。この第二章次第でその後の文章から受ける印象が異なるような気がします。

そんなことはさておき、こういった無茶が出来るのは30代まで。よほど頑張っても45歳以下という旅ですよね。

(旅フリーク度が増すほどこの意味が理解できると思います)

辞められなかったんでしょ?俺も昔は世界中を旅したから、わかるよ、そういう気持ち。三十歳を過ぎてこんなことをやってちゃ、君はどうせ日本じゃロクな所で働けないだろうから、この際、開き直ってとことんやりなよ」 – p.121

いや、ほんと、海外をウロウロしていると完全にラリってる旅人と出会うことがあります。現地と同化しちゃってる強者。みなさんその後どんな人生を歩まれてるんですかね。

この本のあとがきにこんなことが書かれています。

グーグルやヤフーで検索しても経路が出てこない場所である。自分の足で情報を集めなくてはならなかった。その過程が無性に楽しく、胸がときめいた。迷惑をかけた人たちには申し訳ないけれど…

この行を目にした私も「だよねー」と思っていました。

(日本にいても脳がラリってる中年ジジイです)

私も南米の移動ルートを探る意味で知識や教養が足りないので移民史系の本を読み漁っており、それは単に地図を指して「昔ここに日本人が居たのか」という回想にすぎないことなんですが妙にワクワクするんですよね。

著者が踏破したルートは確かにネットで普通には見つけられず、「こりゃぁ、パナマとコロンビアの地図を買わないと無理だな」という地名ばかり。

特にコロンビア側は謎だらけ。

この地図なんて「JUN 27 1904」のスタンプが押されていますがコレをちょいと拡大しますと…

この本に出てくる地名がチラホラ

地図を見ると国境沿いに「Andes Range」と読めるので国境沿いにアンデス山脈があり、そこを越えることになります。とはいっても標高は低そうです。

この本の著者はコロンビア側の「アルキア(Arquia)」から「アトラト川(Rio Atrato)」に沿って南下し、上の地図では書かれていませんが途中「カカリカ川(Rio Cacarica)」を遡上しパナマ側の「パヤ(Paya)」へ抜けるルート。

文字にすれば「へー」で終わりますが距離と所用時間を把握すると「げっ、マジか」という内容に驚かされます。やはりジャングル移動は大変です。

ちなみのこのルート説明がp.173に出てくるのですが、この辺りを読んでいるときはすっかり文章にのめり込みハマっております。完全にやられました。

途中「エクアドルから単独で歩いてきた男」とか書かれた写真が載っています。読んでいる時はさほど気にも留めなかったのですが、読み終わってから「ん?エクアドルから徒歩?アホか?」みたいな現実とのギャップに驚かされるというか、呆然というか…。

さて…

パナマもコロンビアも美しい場所には興味があるのですが、この場所はちょっとね。

でもこういう場所を含めてのパナマでありコロンビアなので詳しく知れて楽しかったです。

まさに人柱踏破。同じ大和民族と思えないやらかし具合ですが、それゆえに日本語で楽しめる有り難さも感じる一冊でした。

なにせここを通過した人の本を読めることが2020年で珍しいことですから。

ダリエン地峡決死行」、おすすめの一冊です。

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