昔の漢字を紐解くのに必要な辞書 : 大字典

ありがたい一冊
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タイトル写真を見ての通り現代では見ない文字を探し当てるための辞書で、その名も「大字典」です。先日永井荷風の「断腸亭日乗」をメモりましたが、その「日乗=日常」は音が一緒なので読み当てられますが、見たことがないような漢字や熟語には苦労します。というか読むことすらできません。無学なもので…..。

現代の常用漢字は『2136字/4388音訓[2352音・2036訓]』らしく、そのほとんどを知らなくても生活できるのですが、この辞書を手にしますと「すげー数の字が消えてるんだなぁ」と思い知らされました。言葉自体はどんどん生まれていますが漢字自体はどんどん減っております。

その「断腸亭日乗」の中身をチラリとお見せしますと…

これを読み進めるのは至難です。

「摘録 断腸亭日乗」はすこしだけ読みやすいですが…

文字は読めても意味を悟れず

なにが一番困ったかというと、こういった古い文字を引く辞書の名称を知らないということ。

(全く思いつかない)

意訳理解で満足できればよいのですが、ニュアンスが掴めない寂しさは歯痒いばかり。逆に文字の意味が理解できると表現が3次元で捉えられ、当時の世界観がぼんやりと立体的に見えてくる面白さがありました。

そもそも何も知らずに「斷腸亭日乗」を一発で読めないですよね。「断腸亭日常」に慣れてしまうと戻れません。そんなこんなでたどり着いた大字典ですが、これがなかなかの面白さ。例えて言うと古地図にハマって「ついつい眺めちゃうんだよなぁ」というアレの辞書版です。

大字典の歴史

百聞は一見に如かず。

初版 大正6年

見てくださいな、この改訂の数。

いかにこの字典が人々に慕われていたかがわかる歴史です。そもそも「大字典」という名称が一般的だったのかと思いきや、実は漢和辞典の方が一般的であったことが序文から推察できます。それがまた歴史を感じる一文でして、ご存知金田一京介の言葉が載っています。興味ある方は是非買い求めてお読みくだされ。

昭和15-18年頃に一度途絶えたものが昭和38年に復活し、まさしく私が手にした普及版が昭和40年のものです。そこら辺りから高度経済成長と相まり外国語も入り乱れ現在のようなことになっているわけですが…。

今となっては貴重な「続け文字」も解説

明治以前の文字のお手本となると江戸時代になるわけで、文字を書くツールは筆になり、かくしてそのような手本を真似た結果、           流れるような続け文字で残された手紙もたくさんあります。明治維新で続け文字が廃止されたといっても社会は昨日今日一気に変化しませんし永井荷風直筆の手紙などは実に美しい書体です。

私は続け文字を読めませんがフォルムから受けるデザインの美しさは感じ取れます。書を習えば今でも極めることはできるわけで暫く眺めておりました。

和様文字は読めない…

続け文字もいくつかの流派(書流)があったことぐらいは知っていましたが、この部分に好奇心が湧かなかったのが無念。余談ですがもし今戦争が起こったら渦中の人は事実を文字で残せない確率が高いですよね。紙と鉛筆よりも電気確保が重要でノートPCとかに記すんだろうか….映像で残す時代なのかな。

文字の生い立ち(や篆書)も確認できる面白さ

なんですか、この細やかさは。この辞書オモロすぎます。

少し話がそれますが、このページを眺めながら若い頃に案内した西安の旅を思い出しました。今は名称が変わっていますが「ANAグランドキャッスルホテル西安」が出来たばかりの頃のことです。さすがに記憶がうる覚えですが、たぶん西安牌石に立ち寄った時に見た石碑に漢字の生い立ちが書かれており衝撃を受け「拓本が欲しい」と思った時以来の衝撃度です。場所を間違えてたらごめんなさい。例えば「回」という漢字は渦巻のような線の形から出来上がったといったことが目で見て分かる楽しさの場所でした。

思考レベルが全く成長してないですが、今でも自分が反応するポイントはデジタル化しにくい点かもしれません。それぐらいこの辞書は素晴らしい。痒いところに手が届く感じ。

篆書に至る…文字って面白い

こういう図説は外国人の日本語勉強にウケそうな気がします。

こんな面白い字典見たことないですよ。「鳥に関する文字の構成一覧表」は本書の解説的ページですが、これが可能な限り載っています。例えば「旅」だとこんな感じ。この字典を作るには相当なご苦労があったと思います。

文字通り人々が行き交う漢字「旅」

今では使われてない表現を読むと妄想力がかき立てられます。「旅炊(旅にて炊くこと)」「旅百(多く並ぶこと)」「旅次(旅の宿り)」「旅衣(旅行中に着る衣服)」など、この歳になって初めて聞くキーワードだらけです。面白すぎる。

辞書って子供の頃に義務教育で手にしますが意外と見ませんよね。でもこんな字書だったら漢字や言葉が好きになると思います。まぁ学がないジジイが知らないだけで漢字検定とか楽しまれる人には旧知のバイブル本かもしれませんが、いずれにしても楽しい字典です。ということで、古い本を読むときに旧字の読み方や意味に悩んだら「大字典を買え」のご紹介でした。今では誰も使わない言葉の謎解説が楽しめる辞書です。ちなみに今回はリアル古本屋で1,500円で買いました。ネットでも安いですよ。

余談ですが、この辞書製作の立役者が言語学者の「上田万年」です。タイトル写真の右端に消えかかった文字にうっすら読み取れると思います。この辞書を眺めていると、今現在私たちが使っている言葉や漢字がなにゆえの理由でこんな発音、文字や意味の簡略化、仮名遣いになったかの一端を垣間見ることが出来るのですが、情報を漁っていると「日本語を作った男」という本があるみたいです。読んでないのですが面白そうなのでリンク貼っときます。

言葉の意味は長い時間をかけて変化しているので諸説あり、正誤よりも考え方のひとつとして生い立ちや意味を深く知るとおもしろいですね。

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