1990-1995年はデジタル時代夜明け前でした。アナクロでデジタルっぽく身の回りを固めて自己満足できた最後の宴の時期。たぶん私も持っていたと思いますがシャープの電子システム手帳みたいな商品。ネットと切り離された、ちょっと近未来的アイテムでしたが使い道はスケジュール管理や住所録レベルが殆どでした。スマホの時代に住所録とか言ってもピンとこないですよね。
旅も同様で当時のバイブルの一つが沢木耕太郎氏の深夜特急。
リュックを背負って海外を放浪するアレ。深夜特急がバイブルだったのは令和元年時点で50歳ぐらいから上の方だと思います。残念ながら私は少しブーム後の世代。
この動画はYouTubeでも見られるのですが画質が汚いですし、たぶん海賊版なので途中の話がカットされています。
DVDを買わなくてもストーリーは知っていますが、ふと「そーか、あの頃の景色が映像で残ってるんだな。今見ても通用する国としない国を(YouTubeの違法アップロードよりは)綺麗な画質で見たいなぁ。中古でいいから買って見っぺ」ということで中古品をご購入。このDVDは96-98年にテレビ放送され大沢たかおさん主演の旅番組です。
世はWin95で大騒ぎしWin98リリースで世界がデジタル化で席巻されている最中の放送で、カオスな感覚を覚えています。「ダイヤルアップ」と言われるよく分からない「ピーヒョロロロロロ、ジー」な音と共に世界と繋がれるのに、香港やタイで発券される呼寄せ(格安)航空券をわざわざ国際郵便で送ってもらって日本で手にして旅する感覚は今となってはオヤジの単なる旅の思い出です。
オジサンの格安旅行は今となっては時代遅れの山下◯ヌー氏が活躍した時代
当時の格安航空券をごく簡単に説明すると、今から約30年前の世界は航空会社が国ごとに価格をコントロールし、日本円より安い通貨国で発券された日本国外発券航空券を日本で簡単に入手できない時代でした。そこで、例えば日本からタイへ行き、そこから先はタイで発券した航空券で最終目的地へ行ったりしまた。この番組ではそれが香港の設定です。
私も探せば出てくると思いますが海外発券の1年間有効のオープンジョー航空券というのがあります。ザックリ言うと往路便だけ予約利用し、復路便は1年以内であればいつ使ってもokという航空券です。その復路便を乗らずに捨てても、その航空券が日本で買うより格段に安い時代がありました。今は世界中の航空券がネットでポンの時代ですから信じられませんよね。深夜特急はそういう時代の物語です。ある意味「旅を自分で組み立て、コストと時間を自分のアタマで計算して旅が出来た」時代です。
そんなこんなで久しぶりに見たわけですが、相変わらず面白い番組です。そうそう、これを書きながら思い出しました。「12万円で世界を歩く」とか読んでワクワクした世代です。下のAmazonリンクはズバリ当時読んだものです。本当に懐かしい。
時代を経たからこそ新鮮な深夜特急
今は誰でも世界一周できます。私も何名かツワモノを存じております。
昔と今の相違点は妄想力の有無。昔は世界を巡るための思考全てが冒険的で、そのデータは紙媒体しかありませんでした。別の言い方だと全てが1年ごとに発行されるガイドブックのバッチ処理。そのバッチ処理も信ぴょう性が低くドキドキしながら旅をしたものです。
このドラマもその要素がたっぷりまぶしてあります。それがまた懐かしい。
世界一周コンテンツはネットでもロングテールなキラーコンテンツなので私も「してみたいなぁ」と思った時期があったのですが、ある人生の先輩に言われた言葉が忘れられずしなかったのですが…そういう旅は若い時にしかできない特権ですよね。歳をとってからでは一所に落ち着く行動が増えます。
いつの時代も一緒だと思いますが、この本の醍醐味は「自分の稼いだ金で、自分の人生に海外逃亡の時間を組み込むススメ」みたいな要素ですよね。人生の中で半年や1-2年は誤差ということを理解しているのに実行できないところに今でもファンが多いのだと思います。
ゆく人の流れは絶えずして、しかももとの人にあらず
若いころに何度か世界一周旅の手配をお手伝いしていた時に会社の先輩に2つの言葉をもらいました。それはその後の人生でもふと思い出す言葉です。なかでも印象的なのが次の言葉。
『世界に絶対はない。全て相対的なこと。』
この言葉はどんな仕事にも当てはまるので忘れられません。
「全ては相対的なこと」という諭しは私のような平均(以下)なポンコツ&ボンクラ団塊jrにとって衝撃的でした。たぶん過去にメモしていると思いますが、生活の中で何となく「〇〇って、そんなもんだよね」という常識の縛りがありますよね。そういう縛りの中で社会生活を送っていると旅行業だと次のような思考回路になります。
- 客に聞かれたらなんでも答えられて当然。プロだから。
- だれよりも熱心にガイドブック学習して情報をインプット。
- 私は移動、ホテル、食事、エンタメなんでもござれのマルチ人間。
でも a~c は全て相対的で、社会や世界は日々変化しているので覚えても無駄です。でも若いと知識の武器を持ちたがります。これもネット社会では当たり前で、古い情報は参考になりますが絶対では無いのと一緒です。だから鮮度の新しい情報を探す。
このDVDを見ていると場所、期間、ルートはどーでもよく、それは話の展開上ユーラシア大陸横断の体を楽しんでいるだけで、期間の長い旅というのは実のところ誰もが「あらゆるヒト、モノ、コトに触れながら、自分が地球上に存在することの再認識行為だなぁ」なんて思いながら見返していました。大昔に流行った「成田離婚」は四六時中時空が変化する旅における男の環境変化適応テストみたいなことだったんでしょうね。この言葉が流行ったのも1996年頃でした。
旅のスタイルは全人類例外なく唯一無二
庶民がほんの2-30年前まで本でしか知り得なかったことが今はネット動画で行った気分になれますが、まずは誰でも国の外を見た方がいいですよね。年齢に関係なく自分の眼で。
先輩に教えたもらった言葉のもうひとつがそれでした。
『旅のルートは同じでも足跡まで同じものはこの世に存在しない。』
旅を手配していた頃に感じていたことですが、何人もの熱狂的ファンから「私も深夜特急のような旅をしたい」と本のルートを相談されましたが、相談を受けた私はいつも「なんでみんな人と同じことをしたがるんだ?」と感じたものです。それで自分がしている手配がだんだんアホらしくなってきたときに先の言葉をもらいました。「似て非なるものだから客の要望に応えろ」と。
そんな仕事をしなくなって何十年も経った今このDVDを見ると、私も似たような旅をしましたが全て違います。似て非なるもの。久しぶりに観直すと、国ごとに異なる空気感が察知できる経験値が大事なんだろうと思います。一般的には文化交流とか民間外交という言葉で片付けられます。アメリカ好き、インド好き、イタリア好き。人それぞれですが、いずれにせよ時間が許せば若い時に世界をフラつく権利を行使しとかないと損ですね。
このDVDの帯に書かれたキャッチが「マジに酔狂。」ですが、そのネット訳は「普通は人のしないようなことを、好んですること。ものずき。」だそうです。このDVDの元はテレビ番組ですから演出だらけのはずですが演出を感じずに見られるのも特徴で、本をテレビ化しようと旅に出たら旅にテレビが喰われたお手本のような…当時確かにこんな感じの旅が流行りましたな。
DVDを見ながらツボった見どころ
てなことでダラダラとDVDを見ながらアルアルなメモです。
😀日本のA’cross
沢木耕太郎が訪れた旅行代理店に「A’cross」の文字。アクロストラベラーズビューローですって。
私が20代の頃はマップ・インターナショナルの記憶が強く、人間が作った旅行手配ルールの網の目をかいくぐり、これまた人間がコテコテの人海戦術で航空券を手配していた時代の最後です。
😀香港のキャシー・チャウ(Kathy Chow・周海媚)
この番組の第一便に出演の香港出身女優「キャシー・チャウ」は今も現役というか、今となっては大ベテランの女優さんですが、この深夜特急の頃が最高に売れっ子だったと思います。香港で筆談する笑顔が可愛らしい女性その人。つまり続編を作ろうと思えば作れます。皆様あり得ないぐらい上手に歳を重ねられており、そのことが凄いな、と。
😀タイのブックバンド
タイバーツを持っていない沢木がバスに乗る段になってそのことに気づき、現地の学生に両替を頼むシーンですが、その学生が手にしているのがブックバンド。確かに学生の頃流行った記憶があります。1つぐらい持っていたと思います。懐かしい。今は見ないですよね。流行ってないでしょ?
😀マラッカを走る大沢たかお氏が背負う荷姿
こういう荷物スタイルが定番ですよね。普段はサンダル履きでもいざと言う時のトレックシューズをリュックにブラブラ。日本出発の時(とか飛行機に乗る時)はそれなりに身なりを気にするも、現地でゴムのビーサンを買って同化し始めたら完全にハマってますよね。
😀インドの手書きイミグレ手続き
これって今はやってないでしょ?僻地でこういうことはよくあることでも初めは慣れないのでドキドキしたものです。この辺りのシーンでは大沢さんの喋りが少し上達してる演出になってますよね。普通は不自然な演出ですが旅で揉まれてるシーンを見ている間にハマっているのがインド。昔も今も好みが分かれる魔のインドです。たぶんガンガーは微塵も変化なき場所ですよね。
😀パキスタンの私設両替商
今の地上波では演出でもアウトかもしれませんね。誤解を招くとか言われそうです。色々なコト、色々なモノが共有できると便利ですが、こういうシーンを見ているとお金だって文化のひとつで「紙幣も国ごとに違うから面白い」とか思えてきました。
この辺りから主人公は毛布を身にまとい移動するシーンが増えます。いつの間にか旅のベテラン。この後カイバル峠の国境抜けシーンがありますが、今ではそんな情報もネットにゴロゴロしており、元を辿れば全ては深夜特急にたどり着くだろうと思います。
😀イランのホニャララ
私もほとんど知らない地域。知らないので食い入るように見ちゃう場所です。行けば意外と水源も豊富で美しい場所だと思いますが、知らない場所。アルゲ・バム遺跡とか大昔に手配させられて「そんな場所知らねー」とか思ったものです。今ではネット情報がごろごろと。この番組に限りませんが、昔のテレビ制作は知る術のない場所へ川口浩みたいな…キーワードが50歳越えしてきたんで割愛。
😀トルコでサバサンド
日本に無い文化で、若い頃は「洒落た国だなぁ」と思っていました。日本で片手で食べられるファストフードはおにぎりぐらいです。他にないでしょ?このサバサンドは日本でも通用すると思っていましたが、誰も商売してないとこを見るとダメなのかな?そういえばヨーロッパの地図を広げるときチラリと映るノースフェイスのバッグ。まだスポンサーの露出が少ない時代ですね。
😀ローマのドロボー
イタリアでジプシーのスリは今も有名。もはやヘリテージレベル。
😀フランスのマルセイユ
マルセイユってブイヤベースでしたっけ?ここの郵便局で日本から送ってもらった金を受け取るシーンがあるわけですが…..時代はスマートペイとか言ってます。旅行小切手とか郵便局留め受取りをしながら長旅が成立していた時代とはいっても、それ以前の世界と比べればEU統一前の各国通貨と価値交換できますから画期的な旅のスタイルでしたが、改めて今の時代を経済からみると人々は確実にグローバルなセグメント分類されている最中に感じます。
全然関係ない話ですが松嶋菜々子さん、お綺麗で。
そーじゃなくて、その方が帰国の途に使っているマルセイユのJALバス。大昔の記憶ですが、確かこの頃JALはパリやロンドンみたいな大都市意外でもJALバスを走らせていたような…。
😀ロンドンの電話ボックス
日本の公衆電話でSMSを送るような行為ですが、今見直すと「電報を打つ」という言葉が死語の感覚です。でも番組制作当時はネットが始まったばかりですし、海外から日本へ情報を届ける術の代名詞が「手紙」という時代。この約20年間の変化は激的です。というか、公衆電話という概念が消えつつある今日この頃です。
ちょっとネタバレな作者インタビュー
この番組は後半に行くにつれ原作と大きく異なります。特にDVDの3本目のヨーロッパ編は相当手を抜いてます。手を抜いてますがギリシアやイタリアでフォーカスしている土地がマイナーなので冒険心を維持できる内容になっていると感じます。
そのことがDVDに作者本人のインタビューとして収録されています。そのインタビューのネタバレを書きますが、当時は「他人の名前で国際線に乗れた」という話しが収録されており「あぁぁぁぁぁ、そーいえばそーだったなぁ」と思い出したのでした。すっかり忘れてました。
記憶が正しければJAL123便墜落以前はそんなことすら気にされていませんでした。テロなんて稀なる想定外の有り得ない出来事で、全ては全人類性善説で進行しておりました。私自身はダミーネームで乗った経験が無いのですが、自分が連れ回した顧客データがダミーネームだらけだった記憶はあります。本当に他人の名前で国際線の飛行機に乗れた時代がありました。今考えるとセキュリティーの概念すらない、昭和の平和な時代のお話しです。
これを全世界でやっていたのですから平和な時代ですよね。
そんなこんなで今見ても映像内容が面白い理由は鉄道やバス移動にあるのかもしれませんね。飛行機移動では感じ得ない空気を存分に楽しめるDVDです。
事のついでにミッドナイト・エクスプレスのメモ
この本が出た後、続々と若者が旅に出ました。それを沢木氏と同年齢で再現した私と同世代の「僕たちの深夜特急」なんて本もありました。お懐かしい。更には少し前話題になった「珍夜特急」というKindle版の読み物もおすすめです。
こーいっては身も蓋もないですが、旅の道中を全て録音録画すれば幾らでもコンテンツ化できてしまうので世界を知りたい若者は後先考えずに海外に飛び出しちゃうのもアリですよね。10年ぐらい放浪すれば新しいカテゴリーの仕事を産み落とせると思います。
今は稼ぐことに於いて「ネット、動画、広告」みたいなキーワードでPCにへばりついて生活しがちで子どもの夢もユーチューバーとか言ってますが、破天荒な旅を無理矢理成立させることが出来るのは若い時だけということを初老になってつくづく感じます。いや、マヂで、本当に。いかに金が必要な人生と言えど、朝から晩までツイートして情報商材を煽る生活….もったいない。
深夜特急はちょっとした旅に持参するにも良いサイズの単行本ですが、読まなくなると手放し、手放した後でふと読みたくなる不思議な本で、私も何度かそんなことを繰り返していましたが、2004年に旅のバイブルが本当にバイブルサイズで発売され、それを2014年に古本で買ってから以降は手放すことがなくなりました。分厚すぎて手放しにくいサイズです。
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