In Lotus-Land Japan「この世の楽園 日本」

ありがたい一冊
In Lotus-Land Japan 復刻版
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まだ読みあさっています。トーマス・クック時代の絵本。

本日は以前メモった「英国人写真家の見た明治日本」の原書「イン・ロータスランド・ジャパン」のメモです。「ロータスランド = 地上の楽園」と訳されており、それは桃源郷の意ですが「それだったらシャングリラでね?」と思って調べるとシャングリラという言葉が生まれたのは1933年らしく、この本が書かれた1910年にはなかった言葉だそうで、確かに「電気グルーヴの歌詞もしっくりこない」とか、どーでもいいことを思い出しながらペラペラと。

かつて日本は地上の楽園だった

この表紙からも日本文化の独自性をみてとれます。

スマホ計測30度

外国人の目には単なるフジヤマゲイシャの表紙ですが、だらり帯に家紋が入っているのでモデルは京都の舞妓さんだと思います。どちらの置屋さんがモデルですかね。

以前に京都上七軒界隈を撮影したことがございまして、そういう場所のお食事処には舞妓さんの京うちわがズラリと飾られており、そこには家紋が入ることが多いのですがこの家紋の置屋さんは現存してません?してますよね?

表紙にも作者の日本愛を感じます。あえて置屋の家紋が確認できる構図を選んでいるのが面白い。 さらに立礼姿はスマホ計測30度。いわゆる敬礼という一般的お辞儀スタイル。1つのイラストで文化、服装、作法などが感じられます。

すべてわたしの勝手な妄想。本文中の写真には金閣寺を背に桔梗家紋のだらり帯が載っていました。そちらの置屋さんも現存していると思います。ですよね?その界隈の方が見れば涙がちょちょぎれるお宝写真だと思います。

英国人写真家の見た明治日本「この世の楽園・日本」
調べるスイッチが入るとどこまでも調べ倒すのが悪い癖。本日は写真家ポンティングさんが見た明治日本についてのメモ。写真家ではありますが、現存する写真は多くないようです。この方はスコット南極探検隊の映像記録を残したアーティストだそうで...

ロータスランドという言葉もよいですね。わたしだけなのかもしれませんが今の時代にロータスで形容する国はタイの印象ですがこの本の主人公は日本です。

やはりシャングリラだと中華系ホテルのイメージが植え付けられているせいですかね。

古き良き日本を形容し、懐かしむ言葉としてすてきな響きだなぁと思います。冒頭から話がそれまくっておりますが。

In Lotus-Land というタイトルの写真…鷺は演出?しすぎでしょ?

 

本書を再販してまで残してくれた人は銀行頭取

「In Lotus-Land Japan」は比較的入手しやすい本ですが増刷された節も感じたのでどれを買おうか悩んでおりましたら正宗猪早夫という方が自費出版したものと出会い、そちらを購入。

まったく名前を存じない方なので調べると日本興業銀行の第3代頭取だそうです。

英語の分厚い本に日本語という不思議な感覚。

巻末に書かれている復刊の辞

これによりますと1981年10月、経団連の政府派遣訪欧経済使節団派遣の一員としてポンティングの故郷であるイギリスのソールズベリーの教会を訪れたとき、付近の古道具屋の本棚で「JAPAN」の文字が目に入り8ポンドのところを6ポンドにまけてくれて買ったそうです。

当時のレートで3,400円ぐらいが2,600円ぐらいになればうれしいとはいっても日本を代表する銀行の頭取ですから庶民感覚と比べられませんが。

買い求めてペラペラめくっていると「特に70年前の出版であるにも拘らず奇麗なカラー(当然白黒に彩色したものの筈ですが、印刷が美事に仕上がっています)」…という幸福感から復刊を企画したと書かれています。

印刷依頼先はDNP(大日本印刷)ですが、確かに素晴らしい復元具合で原書は1910年発刊なのに今でも独特の存在感をはなつ仕上がり。まぁバブルの絶頂期に当時の贅の限りを尽した一冊です。

1985年に1500部コピーしたと書かれていました。

 

日本女性は社会でも家庭でも最重要人物なれど出しゃばらず

てなことで日本語訳で一番面白かった女性についての章を真っ先に読みました。

日本語訳で「食事が口に合うからでもない」という章が読みたくて最初に目を通したのですが「nor is the food particularly to your taste.」と書かれていました。これを「好みに合わない」と訳しちゃうオジサンはダメですな。

もしこの本の英語を日本語対比で並べた翻訳を見ると理屈では説明しにくい日本の本質的な機微、日本人のDNAが表現されているぐらいすぐれた客観的記録書だと思います。

232ページは超秀逸です。

女性の立ち位置、旅館での仕事の采配ぶりにふれてあり「独裁的で賢い。支配しているふりをみせないけれど実際には支配している」と。

皆さんも想像できますでしょ?この感覚を。

夫が手綱をひいているように見えて(もしくは見せて)実のところ夫が妻をフォローしている。夫婦の絶妙なやりとりが記録されています。これは日本だけに限ったことなのか否かわかりませんが観察眼がおもしろい。

続く文章に「女性は家のなかで卓越しているだけでなく、国の社会的産業システム全体で重要な要素であり(中略)女性は多くの職業で男性と同じぐらい有能であることを証明している」とあり、正しくその通りですが賃金で差をつけた奴隷労働のような平成や令和にポンティングさんも草葉の陰で嘆いてることでしょう。

この問題はグローバル化に対応できる日本男女は増えても、国としては大和男や大和撫子が減り続けた結果がいまということでしょうね。

 

妙訳よりはるかに興味深い原書

日本語版抄訳でカットされていたのは宇治、奈良、家屋と子ども、松島と蝦夷、日光と修禅寺、彦根城でした。ポンティングさん以外にも写真を残してくれた方はいらっしゃるわけですが、私はこの方の写真がわりと好みのようです。

1901年頃の宇治・茶摘み

「日本のビールは1瓶6ペンスで買えるが、お茶は駅でボトル&カップ付きで3銭で買える」という説明からスタートし、「GW頃に新茶を摘み始め、その後も摘むが価格は下がる」「4月には米の苗を育苗し、6月頃に泥の中に植える」「米作りをしていても自分たちは大麦やキビを食べ、米は裕福な人へ流れる」「6月は京都から特急列車が走り、大阪はホタル見る訪問客で賑わう」「源氏蛍の名前の由来はかつての源氏と平家から云々…」などなど。

よくもまぁこんなに調べ上げたことでポンティングさんは相当なメモ魔ですね。

とても覚えきれない情報量です。

しかし「お茶が3銭」って高いですよね。確か新橋-横浜は5銭だったと思うので。

1901年頃 奈良のカラー写真

こういう撮影・編集技法(手彩色写真?)をなんというのか知りませんが、この写真絵を100年前に海外で見たらちょっと感動を覚えると思います。

傘をさした女性が鹿と接している姿で、場所の雰囲気からして春日大社だと思いますが、昔も今もまったく一緒。このリアリティが凄い。右側に灯籠のあいだから鹿の頭が見えていますが、いまでもこの景色に出会えます。ほぼ同じ。

明治の日本案内書が令和でも通用するというのも驚き。どことなく光琳や抱一の鹿図を彷彿とさせます。つまりですね、こんな一枚の写真からでも日本の風土が感じられるわけです。

片鱗はいまも残っているけれど、そこに住む日本人が日本人たる要素を捨てている印象です。

100年前の日本にずいぶん愛着が湧いてきました。特に地方。

色々な写真を見てつくづくタラレバを感じます。

 

敗戦であらゆる日本文化が大破したことに気づいていない日本人

もし戦争がなかったら日本の景観はもっと美しかったでしょうね。

全国に遺構や史跡が山ほど残っていますが残念なことに明治維新から終戦までの空襲でこっぱみじんになってしまい近代と現代の境が欠落しているので日常目にするほとんどは趣がないものになってしまいました。

もし関東大震災(1923年頃)がなかったら東京の景色も面白いはずですよね。

浅草凌雲閣とか現代で見てみたいものです。

まぁそのお陰で壊す作業が省け、新しいものを取り入れざるを得ない環境になったよさもあるでしょうが、その後の東京大空襲(1945年頃)で再び更地になってしまい昔の面影が吹き飛びました。

そんなことを思っていると、東京という場所はじつに面白い町です。

特に近現代は土地転がしだけで成り立つような土壌に人が集まっては死に、再び集まっては死にの繰り返し。いまは人が集まっている時期ですが、そのうち「二度あることは三度ある」ですね。

 

よく見かける写真がこの本にも登場

この本で印象に残ったのは下の写真です。

野宮神社の竹林ロード © Underwood & Underwood

これと同タイミングに撮影されたと思われるネガが下のものです。これってステレオカメラのネガですよね?たぶん。元祖VR。確か「ステレオビュー(STEREOVIEW)」とか言ったと思います。

スコープでした?こんなの私も四半世紀ぶりに見ました。若い頃に香港土産物として売られていたものを先輩から貰って眺めたことがあります。なんともお懐かしい姿。ネガと言っても大昔は印刷された絵が2つ並んでるだけのものが多々です。

Card

あえて「©マーク」を入れましたが、どうやらポンティングさんが撮影後に版権を売ったと言われている写真ですが、記載年が前後しているものも多く真実はよく分かりません。

人力車の類似構図は1920-1930年頃にトーマス・クック発刊ガイドブック(というか、一昔前の言い方だと旅行直前に送られてくる「旅のしおり」にも似た小冊子など)にちょいちょい登場します。

この構図は今風に言えばタクシー乗車シーンの再現ですが、このカットに外国人は日本を感じる要素があるんですかね?

しかもネガには2台目の人力車の後ろに人影らしきものが写っております。さらに後ろには傘をさした一団も見えますが先の写真では全て消えています。おそらくこのネガを元にして今風に言えばフォトショップしていたのかもしれません。よくよく見ると腕の角度も若干違います。

トーマスクックの古いガイドブックにも類似構図の人力車を操る人の顔がカオナシ状態で加工された節があるものの、どれが元の写真か気になっていたので「トーマス・クックが使って加工した元ネタはこの写真じゃないかなぁ?」と思いながら眺めていました。

間違いないことは1900年頃の日本でこの様子ですから1920-30頃の世界一周ツアーはこ熟(な)れており、その当時の日本人のサービス精神は今に通ずる要素がありそうです。そんな推理をしていると1870-1900年頃の日本が一番面白そうです。

あらゆるものがゴチャ混ぜでチャンポン状態。

まったくの余談ですが、ステレオビュー検索のキーワードは先のコピーライト名以外に「Universal Photo Art」「Keystone View Co.」「HH Bennett」「Strohmeyer & Wyman」辺りが保存状態の良いものとして有名のようです。

この本がインバウンド施設に置いてあれば外人も驚くと思いますよ。なにせ100年前に書かれたものが今でも通用する内容ですから。

現代日本人では説明できない日本が日本たるあり様はこういう本じゃないと説明出来ない時代になりつつあります。作物も栽培から収穫までAIで自動化ですから。更に、日本に来られる外国人も100-150年前の日本の様子からの変りっぷりに驚くはずです。

写真より文章が正確で面白い。

そうは言っても欧米共に100年前の色を未来へ残そうとする感性は脱帽ですね。

日本でカラーが庶民の市民権を得るのは1960年代後半ぐらいからですから私たちが目にするカラーは昭和が殆どなので、表現手法は何にせよありがたいことです。アマゾンでkindleでもハードカバーでも安いので興味ある方は読んでみてください。とても面白い本ですよ。

じつは他にも読んでみたい本があるのですが、とってもお値段が高い。

Captain F. Brinkleyの「Japan」シリーズ。いくつか種類がありますがいずれも最低10万コース。こちらも1900年頃の日本が書かれている本です。今はデジタルアーカイブで楽しんでおりますが、掘り出し物があれば…。

こういう本を見ると「120年前の日本、頑張ってんなー」とか感じます。

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