情報の文明学

ありがたい一冊
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私の父は心臓が弱いのですが、先日「新薬、治療法の新情報がないかネットで調べてくれ」という連絡が入りました。別に延命してまで長生きしたいわけではなく、日常を楽しく過ごすための予備知識アップデートです。

これをネットで調べ倒したところ、2年前より緊張感のない情報が増えておりました。

世間では年金支給は75歳になるのではないかと言われていますが調べていた病気は「70歳を過ぎると海外では1割の人が患っている」という説明書きを見ました。つまり還暦は若いかもしれませんが古希(70歳)や喜寿(75歳)は誰でも持病を抱える年齢なんですね。未来は「人生100年」でも1世紀近く動き続ける心臓が劣化しないはずがありません。体なんて人それぞれですから。

調べたことを父親に伝えると安心していたようですが、調べた私は「こんなレベルの情報で安心するんだ」と感じました。やはり情報を見まくる生活に慣れていると、初めから「話半分以下」で理解する癖がついてしまい「情報は信じない」という斜め上な視点から見てしまいます。しかし父親から見ると調べる術が無く、身内が調べた内容なので安心して鵜呑みにするようです。もちろん織り込み済みで正しく伝えるのが息子の使命。

ちょっと話が逸れますが、人間の体というのはすごく面白くて生まれた時はオギャーという産声に喜び、そこから臓器や筋肉が成長し大人になりますが、老化が始まると臓器や筋肉が壊れウゥゥと言いながら死にます。

今まで羊水の中にいた赤子がオギャーというあの第一声。あれを大人は喜んでいますが赤ちゃんは大変ですよね。きっと。いきなり酸素が入って呼吸がスタートするので「痛い、辛い、しんどい、びっくり」みたいな環境適応を試みる第一声だと思いますが、周りの大人は喜ぶだけです。それが死ぬ時には虫の息であっちが痛いこっちが痛いと言い出し苦しそうに思って心配しますが、本当に息が切れる間際の辛さは本人しか分かりません。もしかしたら辛く無く、単に息が止まるだけのことかも。

もちろん赤ちゃんはへその緒を通じて酸素を得ていたり、事前に脳が準備しているわけですが、オギャーの意味は分かっても本人の辛さは分からない。こんなこと知らなくても日常生活を楽しめますが…つまり何もできない状態で生まれ、何もできない状態へ戻る…焼かなかったとしても腐食したり餌になって消えるという摩訶不思議な仕組みですよね。自分がした行為の意味すら分からず忘れて生きる変な動物です。

すっかり話が逸れましたが薬のことで久しぶりに読み返したのが「情報の文明学」です。

いまは個人がメディア化していますが一昔前はマスメディア志望の方がバイブルの如く読んでいた有名な一冊で、なんでそれだけ人気かというと、今読んでも通用する考察が書かれているからに他なりません。裏表紙に書かれた「物質とエネルギーの産業から精神の産業化へ」は初版から20年後の今も続いています。

ありとあらゆる情報の考察が書かれていますが「薬も情報物質の一つであり食品が味覚情報」といった章は先に触れた私と親父との会話そのもの。

久しぶりに目を通して面白かったのが電波や通信のおかげで「情報は夜も昼もなく、24時間中とびかう。それを捉えて処理するためには、人間の方も24時間体制をとらなければならない。昼行性の動物としての人間は、みずからの産みだした情報というあたらしい環境に適応するために、多少とも夜行性のバイオリズムへ移行しなければならなかった。」と。実に便利なことで動物として不自然な生活を強いられることが書いてあります。

これが都市で起こると「経度差が突き崩された都市は、眠ることはできなかった。」とも。

都市というのは経済(金儲け)で動く場所なので寝ないで働きまくる場所なんですが、そこで「働き方改革」とか言っても論点がズレてるように感じつつ昼行性へ戻れない動物が人間なんでしょうね。相変わらず都会の夜はお盛んです。当然地方の夜は寝る時間ですが若者は都会を見てギラギラ輝くネオンに憧れるんですかね。都会は超楽しい場所だと思いますが元々「適応しないと馴染めない場所」と書いてあり、それは昔も今も一緒です。

都市をたたむ – en1

でも社会適応できないと社会不適合者と言われるのも今の時代。都会ではそうかもしれないけど田舎だと違うかもしれません。都会の変化に対応できないと楽しいはずの都会生活が一転して悪夢となることも有り得ます。

この本は私が生まれた頃までに書き溜めたものを私が大学生の頃に出版され、私が社会に出たころに流行った本で、それから何十年経っても新鮮に感じるのは現代でも通用するからですが、今から7-8年前に「情報」という言葉を調べまくったときに再読し、今再び読んでも情報の定義に関しては難解でした。

「情報」という言葉はファジーな使われ方なので便利で不便です。癌細胞も道路の信号機も広義の意味で全て「情報」です。「情報」の意味を調べ倒しても「コレだ!」というゴールなきマラソン調査になりますが、この本は身近な生活からテレビのような影響力の強いものまで細かく載っており読み返すたびに「あぁ、やっぱりメディアに負けてるなぁ」と感じさせる一冊です。

読み終えた後に冒頭の父親との会話を思い出し、薬について考えていました。

「薬」という単語も情報ですが、「心臓用の薬」という理解があり、その中でも効果的な種類に分類され、服用は人間にとって不自然な行為なのでそれ以外の副作用という情報があり…とどのつまり一見体に良さそうな行為のように見えて、体の負担を増やす行為だったりするという面白さ。

たぶん多くの人が薬に頼る理由は「薬=治る」と思ってるんでしょうね。有り得ないですよね。治ったはずなのに全員死にますから治ってないわけで…。

ということで、一般的には放送業界やマスコミを目指す人が手に取る本ですが、関係ない人が読んでも気づきが多い本でオススメです。

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